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症例紹介

呼吸が苦しい  〜猫、肥大型心筋症、肺水腫〜

来院されたのは5歳 雄 雑種の猫ちゃんでこれまで大きな病気もなく元気な子でした。

 

【主訴】
数日前から徐々に食欲が落ち、今日は呼吸が苦しそうな気がする。

 

【診察時の様子】
呼吸数は1分間に60回と早く、鼻がピクピク動くような努力呼吸が認められました。
聴診上は肺音や心音に問題はありません。

 

 

【検査と結果】
胸部X線検査(レントゲン検査)では心臓の拡大が確認され肺がうっすら白く写っています。

以下が実際のX線検査写真です。

以下が比較のためにお見せする健康な猫ちゃんのX線検査写真です。

 

加えて、心臓の筋肉や弁構造、そして心機能が確認できる心エコー検査を実施し、心筋の動きが制限される“心筋症”であることがわかりました。心臓の筋肉は通常よりはるかに肥大し、血液を全身に送る機能が落ちて左心房という心臓の部屋が顕著に拡大していました。その結果、その手前にある臓器である肺に体液が染み出て酸素交換が充分に出来ない状態となっていました。

肺が水浸しで、まさに地上で溺れているような状況。
肥大型心筋症による心不全。そこから心原性の肺水腫に陥っている状態と診断しました。

 

 

【治療と経過】
危機的な状態であり、興奮させると更なる悪化を招くため、怖がらせないように気をつけながら静かな酸素室で肺をドライにするため利尿剤を注射して治療を開始しました。

1度注射すれば瞬く間に良くなるということはまれで、肺から水が抜けるまでの薬用量は重症度によって大きく異なるので、呼吸数が良くなるまでこまめに観察しながら薬の追加投与をしていきました。

数時間の後、呼吸数が減って毛づくろいをする様子になりました。X線画像でも良化が確認できました。
その後は定期検査を行いながら治療を続けており、元気な時とほぼ同様の暮らしができています。

 

 

【まとめとポイント】
今回は元気に帰宅できましたが、重度だと治療の甲斐なく悪化して亡くなってしまう場合も珍しくありません。
また、X線検査で肺が白いというだけでは色々な原因が考えられますが、心臓のエコー検査も重ねることで病気を確定することができ、狙いを定めた集中治療を即時行うことができました。

 

猫の進行した肥大型心筋症の症状は

1、体液が肺に染み出す肺水腫、胸の中の心臓や肺の周りの空間に体液が溜まる胸水、心臓周囲の膜に体液が溜まる心膜液などの心不全症状が出ます。中でも、肺水腫や多量の胸水の貯留では著しく苦しそうな症状がでます。

 

2、大きくなった左心房で形成される血栓と言われる血の塊が体の細い血管に流れ込んで詰まり、突如激しい症状を起こす”血栓症”が起こることがあります。

 

3、肥大した心筋自体が酸欠になり不整脈が出やすくなり、突然死の原因になります。

 

 

また、上記症状がなくても病気が発見されてからの生存期間中央値は2年程度、症状が出てから(心不全になってから)の生存期間の中央値は3ヶ月〜1年6ヶ月程度と色々な報告があります。中央値とは、この病気で亡くなった猫さんたちを集め、死亡までの期間を短かった方から並べて真ん中くらいの値のことです。平均値とは異なりますが、似たようにイメージして頂ければ、大きくはずれていません。

データ的には上記ですが、私の経験的なお話をさせて頂くと、何度も肺水腫になった辛い状態から薬の微調整や呼吸状態のつぶさな観察など、オーナー様の惜しみない協力をいただいた結果、安定して5年間以上症状が出ず元気にしている子も実際にいます。

 

根治治療のない病気であるものの、症状のない時期の早期発見はメリットがあります。しかし、残念ながら身体検査だけでは発見できないことが多い病気です。今回は雑種の猫さんでしたが、好発猫種*といってこの病気にかかりやすい猫ちゃんは何も症状が無くても健康診断で心エコー検査を受けることをお勧めします。留意点は、最初はエコー検査で正常に見えても後から異常所見が出ることもあるので、継時的な検査が必要だということです。

健診の頻度は様々ですので、その子の条件に合わせてこちらからご案内しています。なお当院では検査のストレスを軽減する様々な工夫・気遣いをしておりますので諸々ご心配な方はご相談ください。

 

*世界で最も飼育頭数が多いのは雑種であるため、この病気も雑種の割合が一番多いです。しかし、純血種だとブリティッシュショートヘアー、アメリカンショートヘアー、ベンガル、ペルシャ、メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャット、ラグドール、スフィンクス、バーミアンなどの報告があります。