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症例紹介

チョコレートの誤食

今回はチョコレートを誤食したワンちゃんへの対処に内視鏡を使用した珍しいケースレポートです。

内視鏡を用いて飲み込んでしまった異物を摘出する手法は、現在の獣医療においては珍しくない対処であり、特に当院は内視鏡に力を入れているため多くの症例が来院されます。

ワンちゃん(たまに猫ちゃん)が飲み込んでしまう異物は本当に多岐に渡り、まさかあんなものを!?というものを今まで数えきれないほど摘出してきました。

そんな中でもチョコレートの誤食は多数来院するのですが、今回何が珍しいかというと、チョコレートの誤食に対して内視鏡を使う事はほとんどありません。なぜならチョコレートは溶けてしまうので、内視鏡で掴んで引っ張り出すということができないからです。

 

それでは、なぜ今回は内視鏡を使用したのか?

下記にご紹介します。

 

来院されたのは15才のミニチュア・ダックスフンドの女の子でした。事前にお電話を頂いており、チョコレートを大量に盗食して既にチョコレート中毒の症状が出ているとのことでした。

来院してみると、重篤ではありませんでしたが、やや興奮し心拍数の増加やよだれがダラダラ垂れる流延症状などが認められ、確かに中毒が疑われる様子でした。

すぐにX線検査を実施したところ胃内に大量の内容物が認められました。

 

まだ消化吸収される前のチョコレートが残っている可能性があり、これから吸収されて症状の悪化を招くことを回避するため、すぐに吐かせる処置を行いました。

その結果、数回嘔吐させることに成功したのですが、微量の泡を吐くのみで肝心のチョコレートは全く吐き出されませんでした。

 

 

おかしいな?

 

 

X線画像で胃の中になんらか大量の内容物がハッキリと写っている。

そして今ゲーゲーと嘔吐の動作を繰り返している。

なのに、ほとんど何も吐き出さない。微量の泡だけ。

 

なぜだろう?

と思っていると、処置室全体が甘いチョコレートの香りで満たされていることに気づきました。

においの発生源は吐き出された泡からでした。

どうやら胃の中にまだチョコレートがあることは間違いなさそうです。

 

そのためオーナー様に状況を説明し、麻酔の承諾を頂いたうえですぐに口から内視鏡を入れて胃内を観察しました。すると胃の壁にベッタリと溶けたチョコレートがへばりついており、特に食道から胃に入ってすぐの場所では、チョコとその包装紙の破片が混じり合って大きな塊になっていました。

すぐに胃洗浄処置に移行して何度も何度も洗浄すると、洗浄液に溶けたチョコレートが大量に回収され、処置室はさらに甘い香りが充満しました。

その後もう一度内視鏡を入れて胃の中を確認すると、胃内のチョコレートはかなり減っていましたが、胃の入り口付近の包装紙と混じり合った大きな塊だけは、ほとんど無傷で残っていました。胃の入り口付近は最も胃洗浄の洗浄液が届きにくい場所なのです。

 

これ以上胃洗浄を続けても成果は望めそうにない。

かと言ってドロドロのチョコレートを掴んで摘出することもできない。

 

では、ここまでで処置は諦めるか?

 

いえ、今回の症例ではここから内視鏡が活躍しました。

胃の中に残っているチョコレートの塊はチョコレートだけではなく、大量の個包装紙が混じっています。溶けたチョコレートを掴むことは出来ないけど、包装紙なら内視鏡で掴んで摘出することが可能だと考え実行しました。

多量の包装紙を摘出する作業は労力を要しましたが、成果は充分なものでした。包装紙にこびりついたドロドロのチョコレートを大量に回収することが出来たからです。

包装紙をあらかた回収し終わった後もまだ胃内のチョコレートはゼロではありませんでしたが、もう残りわずかとなっていました。

ある程度の成果を得たら、完璧を求めず潔く終了することも救急処置では肝要です。徒に麻酔時間が長くなることは別のリスクの発現にも繋がるからです。

麻酔終了後も中毒成分排泄を促すために点滴治療を続けましたが、来院時の中毒症状がそれ以上悪化することはなく、むしろ症状はどんどん軽減していきました。そのため夕方には退院となりました。

翌日にオーナー様と連絡を取ってみたところ、症状はすっかり改善し、普段通り元気に食餌も食べているとのことでした。

 

 

 

チョコを食べちゃったんですけど・・・という主訴で来院する患者様は当院では後を絶ちません。

しかしその多くはちょっと舐めただけだったり、安全なホワイトチョコレートだったりで、あえて治療しなくても中毒を起こす可能性はほとんど無いだろうというレベルのもので、「あえて治療しなくても大丈夫ですよ」と無処置でお帰り頂くこともあります。

しかし今回は以下の条件が揃っていたため、徹底した中毒対応をしたほうが良いと判断し実行しました。

 

1,食べた量 → 個包装のチョコレートを10個以上で多量

2,チョコレートの質 → カカオ成分72%のダークチョコレート

3,食べてからの経過時間 → 推定だが2~3時間

4,症状 → すでに中毒を疑う症状(興奮、心拍数増加、流延)が発現

5,X線検査所見 → 胃内に多量の内容物

 

このようにチョコレート中毒という症状一つをとっても、その条件は様々で、上記5条件の一つでも異なれば全く違う対応になる場合もあります。

なのでオーナーの皆様には是非とも自己判断せずに、知識と経験の豊富な動物病院に相談されることをお勧めします。

 

 

 

執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長

Hayato Arai

麻布大学獣医学科卒。全国最大規模を誇る横浜市内夜間救急動物病院の立ち上げ直後から8年間勤務し5年間院長を務める。その間、TV出演、講演依頼、雑誌への寄稿多数。救急医療現場での貴重な知識と経験をベースに、そこに最高のホスピタリティを加味した今までにない全く新しい動物病院「港北どうぶつ病院」を2015年に設立。特に内視鏡を用いた診療に力を入れている。