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症例紹介

咳とお腹の張り 〜僧帽弁閉鎖不全症〜

【主訴】
「咳が出て心配。ここ数週間くらいお腹が張ってきて寝付けない様子もある。」と14歳のチワワを連れた飼い主様が来院されました。
インターネットで ” 犬、咳 ” と検索すると怖い情報が出てきて心配になったが、かかりつけの動物病院が休診で当院に受診されたとのことです。

【診察時の様子】
診察台では一見元気そうですが、呼吸に合わせて肩が少し動いています。努力呼吸といいます。
胸の聴診で心雑音が聴取され、肺の呼吸音が減弱しています。
そして、お腹だけパンパンに膨らんでいますが、体の筋肉は落ちてしまっています。

【検査と結果】
X線検査、エコー検査により、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症という心臓の弁の病気が進行してお腹と胸の中に液体が溜まっていることが判明しました。

X線写真では胸腔と呼ばれる肋骨で囲まれたスペースの下半分が白くなり、普段は明瞭に見えるはずの心臓の一部が見えず、肺は普段あるべきところから端の方へ追いやられてしまっています。白く見えているのは胸水と呼ばれる液体です。

【治療と経過】
早速、胸水や腹水を抜く治療をすると、お腹の張りは減って呼吸も楽になった様子でした。
その日から液体の再貯留を防ぐ心臓薬を開始していただきました。
再診では咳はほとんどなくなったと伺いました。「若返ったように小走りします。」と喜ばれた一方、早く気がつけばと残念そうにされました。
咳に関してはゼロにできないものの、少しでも楽になるようにケアしていくことになりました。(咳をゼロにできない理由はこちらでは割愛させていただきますが、どこかの機会にお話しできればと思います)

【まとめ】
今回は小型犬では多い僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症という心臓の弁の病気が進行していたことがわかりました。

心雑音は数年前からホームドクターに指摘されていたそうですが、治療はしていませんでした。
心雑音は多くの場合心臓病のシグナルで病的なことですが、病期のはじめは心雑音があったとしても症状もなく元気で治療も必要ないという状況は稀ではありません。
ただ、今回は病気が進行して肺高血圧症や右心不全という状態になり胸水と
腹水がでる重度のレベルまで進行し、咳はこれらの複合的な要因によるものでした。

“心臓病”と聞くと、救急に駆け込むような症状を思い浮かべがちですが、この子のようにゆっくり進行して知らず知らずに症状がでているという事例もあります。
飼い主様は検査結果に驚いたご様子で「咳が出るまでは、高齢で動かないから太っただけかと、動物病院の受診も悩んでいた。」と仰りました。

進行する病気がある場合、一見元気そうに見えてもその子に合わせた“適切な頻度”で検診することが大切です。
そして、些細な変化でもご心配なことがあればご相談いただければと思います。

治療後は下の写真のように丸い心臓の形がはっきり見えます。