STAFFコラム
犬がボタン電池を誤飲したら——今すぐやること・絶対NGな行動を解説
犬がボタン電池を誤飲した場合は、いますぐ動物病院に連絡してください。元気に見えても、電池が体内に接触してから15分で粘膜の壊死が始まることが実験で確認されています(個体差あり)。
この記事では、誤飲直後にすべきこと・してはいけないこと・病院での治療の流れと費用目安を解説します。「とりあえず様子を見よう」——その判断が、命取りになることがあります。
ボタン電池の誤飲に関しては、「これなら様子見してよい」という安全な経過観察の条件は基本的にありません。
サイズや元気の有無にかかわらず、気づいた時点ですぐに受診することが、唯一の確実な判断基準です。「大丈夫かな?」とインターネットで調べて悩む時間があれば、その分だけ早く動物病院に相談してください。
犬がボタン電池を誤飲したら——まず今すぐやること

ボタン電池の誤飲は、「症状が出てから対応する」では間に合わない緊急事態です。まずは今すぐ動物病院に電話してください。
電話しながら以下を準備しましょう。電池の種類(リモコンの裏に型番が記載されています)と、誤飲した時刻をできるだけ正確に確認しておくと、獣医師が迅速に判断できます。
動物病院に電話するときに伝える5つのこと
あわてていても漏れなく伝えられるよう、以下の5つを順に確認してください。
- いつ誤飲したか(何時ごろ気づいたか)
- 何を飲み込んだか(ボタン電池の型番・サイズ。例:CR2032)
- 電池の数と大きさ(わかる範囲で)
- 現在の様子(よだれ・嘔吐・元気がないなど)
- 電池の種類(リチウム型か、アルカリ型か)
電池の外袋や製品のパッケージが残っていれば、そのまま持参するとスムーズです。
出典:ASPCApro|Dangers and Veterinary Treatments of Household Battery Ingestion
自宅でやってはいけないこと——吐かせない・様子見しない
ボタン電池を誤飲した場合、以下の行動は状態を悪化させる危険があります。
- 吐かせる(催吐処置)→ 禁忌:食道を再通過させることで損傷が二重になります。過酸化水素水を使う方法も同じく禁忌で、すでに損傷した粘膜をさらに傷めます
- 「元気そうだから様子見」→ NG:症状がない段階でも体内では壊死が進行しています
いずれの方法も自己判断で行わず、すぐに動物病院へ連絡して獣医師の指示を仰いでください。
ボタン電池が体の中で起こすこと——接触15分で始まる組織破壊

ボタン電池の恐ろしさは、見た目には何も変わっていなくても、体内で電気化学的な損傷が進み続けることにあります。
電池が消化管の粘膜に接触すると、組織液が電解質として機能し、電池の陽極・陰極間に電流が生じます。この電流が組織液を電気分解し、陰極側に水酸化ナトリウム(強アルカリ)を生成。タンパク質を溶かす「融解壊死(液化壊死)」が起き、組織の深部へと浸潤していきます。
Tanaka et al.(1998年)の犬の食道を用いた実験では、接触から15分後には粘膜固有層から筋層に至る壊死が確認されました(個体差あり)。30分後には食道上皮が完全に消失して黒褐色に変色し、60分後には壊死が気管にまで侵食しました。
穿孔のリスクは電池の曝露中から続き、電池を除去した後も組織損傷の進行は止まらず、除去後3〜14日の肉芽形成期に穿孔リスクが特に高まるとされています(ASPCApro)。
出典:PubMed(Tanaka et al. 1998)|犬の食道における電池接触実験
リチウム電池とアルカリ電池——危険度の違い
ボタン電池の中でも、特に危険なのがリチウムボタン電池(CR2032など)です。電圧が3Vとアルカリ電池の2倍あり、液漏れがなくても電気化学的損傷が発生します。
| 項目 | リチウムボタン電池(CR2032等) | アルカリ電池 |
|---|---|---|
| 電圧 | 3V | 1.5V |
| 損傷の機序 | 液漏れなしでも電気化学的損傷 | 液漏れ時の化学熱傷が主 |
| 損傷の速さ | 15〜30分で粘膜から筋層まで壊死 | 比較的緩やか |
| 緊急度 | 最高 | 高い |
「電池が膨らんでいない」「液漏れしていない」は安全の根拠になりません。外見が正常に見えていても、リチウム電池は丸飲みしただけで壊死が起きます。
出典:ASPCApro|Dangers and Veterinary Treatments of Household Battery Ingestion
食道・胃・腸で危険度が違う理由
電池の位置によって、治療の緊急度と方針が大きく変わります。
- 食道:最も緊急性が高い。米国ガイドラインでは2時間以内の内視鏡除去が推奨されています
- 胃:食道ほど急ではありませんが、リチウム電池は即内視鏡摘出が望ましい
- 腸:内視鏡が届かないため手術が必要になるリスクが高く、穿孔の危険も継続します
国内の症例報告(J-STAGE 2006年)では、ボタン電池を誤飲したチワワ(9ヶ月齢・3.2kg)が回腸穿孔を起こし、誤飲158日後に死亡しています。
「腸まで行ったから大丈夫」という判断は危険です。腸に入っても、穿孔のリスクは消えません。
出典:J-STAGE|ボタン電池の誤飲により回腸穿孔が生じた犬の1例(2006年)
元気そうでも絶対に様子見NG——誤飲後に現れる症状と時間経過

ボタン電池の誤飲で最も怖いのは、「元気に見える」ことです。症状が出ていないから受診を迷っているあいだにも、体内では壊死が静かに進行しています。
誤飲した状況は一件一件異なります。電池の種類や大きさ、飲み込んだ犬の体格・年齢、経過した時間によってリスクは変わり、そのすべてを外見だけで見極めることはできません。
だからこそ、「様子を見てよいかどうか」を飼い主の方が自分で判断するのではなく、経験を積んだ獣医師がレントゲンや内視鏡などの検査で状態を確かめることが大切です。迷っている時間があるなら、その分だけ早く受診してください。
| 時期 | 出現する症状 |
|---|---|
| 急性期(誤飲直後〜数時間) | よだれの増加・嚥下困難・嘔吐・食欲低下・元気消失・口腔内の赤み |
| 中期(数時間〜24時間) | 腹痛・嘔吐の継続・呼吸困難・発熱・吐血・タール便 |
| 遅発期(数日〜6週間) | 食道狭窄による嚥下困難・穿孔によるショック症状 |
症状のないケースも珍しくありません。急いで受診してください。
出典:ASPCA|Dangers of Batteries and Your Pets
https://www.aspca.org/news/dangers-batteries-and-your-pets-what-you-should-know
症状がなくても体内では今まさに進行している
「よだれも嘔吐もない、元気に動き回っている」——こうした状況でも、体内では15分前後(個体差あり)から壊死がすでに始まっている可能性があります(Tanaka et al. 1998)。
症状は損傷の結果であり、症状が出てから受診しようとしたのでは、手遅れになることがあります。電池が体内で障害を起こし始めても、外見から損傷の程度を判断できません。
「今から様子を見て、もし症状が出たら」という考えを止めて、今すぐ電話してください。
「うんちで出てくる」は危険な誤解
「腸まで行ったなら、便と一緒に出てくるのを待てばいい」——この考え方も誤りです。
腸内を移動している間も穿孔リスクは続きます。
腸に到達した電池が引き起こす損傷は、開腹手術が必要になるほどの重篤なケースにつながることがあります。
電池が排泄された場合でも、除去後3〜14日間は遅発性の穿孔リスクが継続します。また、今は症状がなく腸の通過に問題がないように見えても、飲み込んだ電池が腸の細い部分に流れ着いたときに、突然、腸閉塞を起こすことがあります。
穿孔は突然起こるわけではありませんが、電池が触れた粘膜のダメージが時間をかけて進むと、あとから穿孔に至ることがあります。いま症状がなくても油断はできませんので、電池を飲み込んだ可能性に気づいたら、必ず動物病院に連絡し、獣医師に状況を報告してください。
病院での診断と治療の流れ——レントゲン・内視鏡・手術

「病院に行ったら何をされるのか」が事前にわかると安心です。基本的な流れは、レントゲンで位置確認→電池の場所に合わせた摘出、という順序です。
電池の位置によって治療法が変わるため、まず画像検査で現状を把握するところから始まります。それぞれのステップを確認しましょう。
レントゲン検査で電池の位置を確認する
来院後、最初にX線(レントゲン)撮影で電池の位置を特定します。ボタン電池はレントゲン画像に「ハロー(二重輪)サイン」と呼ばれる特徴的な二重丸が映るため、他の異物と区別できます。
「食道にあるのか」「胃か」「腸まで進んでいるか」によって、そのあとの治療方針が変わります。来院からレントゲン確認まで、目安として20〜30分程度が一般的です。
内視鏡摘出——開腹しない治療の流れ
電池が食道または胃にある場合、全身麻酔下での内視鏡摘出が選択されます。お腹を切らずに摘出できる方法で、体への負担が手術よりも少ないのが大きなメリットです。
流れは「全身麻酔→内視鏡挿入→把持鉗子で電池を把持→摘出確認→覚醒」というステップで進みます。食道に電池がある場合は特に急ぐ必要があり、米国ガイドラインでは2時間以内の内視鏡除去が推奨されています。
当院での誤飲・異物に対する内視鏡摘出については、横浜で犬・猫の異物誤飲|内視鏡摘出に対応もあわせてご覧ください。
開腹手術が必要になるケース
電池が腸まで進んでいる場合、開腹手術で早期に摘出することが医学的に最善となることもあります。実際にどの方法を選ぶかは、レントゲンや血液検査の結果、症状の有無、電池の位置や大きさなどをもとに、獣医師がその都度判断します。検査を重ねながら慎重に経過を追う場合もありますが、それは獣医師の管理下で行うものであり、ご家庭で様子を見てよいという意味ではありません。以下のような場合には、開腹手術が検討されます。
- 腸閉塞を起こしている、またはその明らかな兆候がある場合
- 穿孔が疑われ、緊急の腸切開・切除が必要な場合
- 経過観察のなかで状態が悪化し、内視鏡での摘出も難しい場合
「他院で開腹手術しかないと言われた」という場合でも、当院ではセカンドオピニオンをお受けしています。内視鏡での摘出が可能かどうか、まずはご相談ください。
治療費について
治療費は、処置の内容(内視鏡摘出か開腹手術か)や入院の有無、犬の状態によって大きく異なります。動物医療は自由診療のため、病院や地域による差も大きく、金額を一律にお示しすることはできません。
正確な費用は、受診時に病院へ直接ご確認ください。ペット保険に加入している場合は、誤飲の処置が補償対象になるケースが多いため、事前に保険会社へご確認いただくと安心です。
犬がかじりやすい!家の中のボタン電池リスクと予防策

誤飲を防ぐには、「家のどこにボタン電池があるか」を把握しておくことが大切です。国民生活センター(2024年7月31日発表)は、小さな子どもがいる家庭でのボタン電池の取り扱いについて注意を呼びかけています。
電気化学的損傷のメカニズムは犬でも同様に起こるため、ペットがいる家庭でも対策が必要です。
ボタン電池が使われている代表的な家庭用品は以下のとおりです。
| カテゴリ | 具体的な製品例 |
|---|---|
| 家電・照明 | テレビ・エアコンのリモコン、LEDキーライト |
| 時計・計測 | 腕時計・置き時計・電子体温計・歩数計 |
| 健康・医療 | 補聴器(空気亜鉛型)・血圧計(一部)・美顔器 |
| 車・外出 | キーレスエントリー(スマートキー) |
| 子ども用品 | 電子絵本・電池式おもちゃ・ゲーム機 |
犬は好奇心から落ちているものを口にします。特にリモコンは電池ボックスのふたが緩みやすく、犬がかじって電池が出てきやすい製品です。
電池交換のときが最も危険——その瞬間のリスクを減らす方法
ボタン電池の誤飲が起きやすいのは、実は電池を交換している瞬間です。poison.orgのデータによれば、大口径の新品電池は、使用済みの電池に比べて重篤な転帰につながる可能性が3.2倍高かったと報告されています。
充電量が高い分、電気化学的な損傷が大きくなるためです。
誤飲を防ぐための3ステップを覚えておきましょう。
- 電池交換は、犬を別室に移動してから行う
- 床に落とした場合は必ず拾い上げ、見つからない場合は誤飲を疑って動物病院に連絡する
- 使用済み電池は電極をテープで絶縁してすぐに回収ボックスへ持ち込む
電池蓋が緩んだリモコンや、電池カバーが取れた玩具は、犬の届かない場所に保管してください。
予防に加え、ペットが過去にボタン電池や異物を誤飲したことがあり嘔吐が続く場合は、横浜で犬猫の嘔吐が続く|内視鏡で原因を調べる検査とはもあわせてご覧ください。
出典:National Capital Poison Center|Battery Danger
港北どうぶつ病院の誤飲対応——朝7時から・数千件の症例経験

港北どうぶつ病院では、数千件の誤飲・誤食症例に対応してきた経験を持ちます。内視鏡による異物摘出の成功率は約95%(当院実績)に上り、「他院で開腹手術しかないと言われた」というセカンドオピニオンのご相談もお受けしています。
朝7時から診療しているため、「夜中に気づいて朝まで不安で過ごした」というご家族にも、翌朝すぐにお越しいただけます。センター南駅から徒歩6分、専用駐車場も7台分完備しています。
当院の内視鏡検査については、横浜で犬猫の内視鏡検査|症状がなくても受けるべき理由もあわせてご覧ください。
内視鏡を行う動物病院の選び方については、横浜・都筑区で内視鏡検査ができる動物病院|選び方もご参照ください。
気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。お電話(045-620-5550)または再診WEB予約から承っております(診療時間:7:00〜12:00/14:00〜17:00、休診:金曜日・日祝午後)。 ※初回は電話受付のみ
犬のボタン電池誤飲についてよくある質問
Q1. 犬がボタン電池を飲んだけど元気そうです。様子見でいいですか?
A. 様子見はNGです。症状がなくても、体内では電池接触から15分前後(個体差あり)で粘膜の壊死が始まっていることが実験で確認されています。元気に見えることは安全の証明にならず、症状が出てからでは手遅れになることがあります。今すぐ動物病院に連絡してください。
Q2. 自宅で吐かせてはいけないのはなぜですか?
A. 自宅で吐かせること(催吐処置)自体が禁忌です。電池が食道を再び通過することで損傷が二重になり、食道穿孔や誤嚥性肺炎のリスクがあります。
とくに過酸化水素水を使って吐かせる方法は、現在ではどのような誤飲のケースでも行うべきではないとされており、すでに損傷した粘膜をさらに傷めます。自己判断で吐かせようとせず、すぐに動物病院へ連絡して獣医師の指示を仰いでください。
Q3. 治療費はどのくらいかかりますか?
A. 費用は、処置の内容(内視鏡摘出か開腹手術か)や入院の有無、犬の状態によって大きく異なります。
動物医療は自由診療のため、病院や地域による差も大きく、正確な費用は受診時に病院へご確認ください。ペット保険に加入している場合は、誤飲の処置が補償対象になるケースが多いため、事前に保険会社へご確認いただくと安心です。
Q4. リチウム電池とアルカリ電池、どちらが危険ですか?
A. どちらも危険ですが、リチウムボタン電池(CR2032等・電圧3V)はアルカリ電池(1.5V)の約2倍の電圧で電流を生じさせます。
液漏れがなくても電気化学的損傷が起こるため、飲み込んだだけで急速に壊死が進みます。リチウム電池を誤飲した場合は最高レベルの緊急度です。どちらの電池でも「すぐ動物病院に連絡」という対応は変わりません。
Q5. うんちと一緒に出てきたら受診しなくていいですか?
A. 排泄されたからといって安全とは限りません。腸の中を移動している間に粘膜にダメージを与えており、電池自体は排泄されても、時間が経過してから穿孔に至る可能性があります。
また、電池が除去された後も、除去後3〜14日間は遅発性の穿孔リスクが残ります(肉芽形成期)。食道狭窄が現れるのは除去後4〜6週間後という報告もあります。便に出てきた場合でも、必ず獣医師に状況を報告し、経過観察の判断を仰いでください。
まとめ:犬がボタン電池を誤飲したら1分でも早い受診が命を救う
ボタン電池の誤飲は、症状が出ていなくても命に関わる緊急事態です。この記事で解説した内容を箇条書きで振り返ります。
- 接触後15分前後(個体差あり)で壊死が始まる。元気に見えても即受診が必要です(Tanaka et al. 1998)
- ボタン電池に「様子見してよいケース」はありません。サイズや元気の有無で判断せず、気づいたらすぐに受診してください
- 自宅で吐かせること(催吐処置)は禁忌。過酸化水素水を使う方法も含め、食道損傷・誤嚥性肺炎のリスクがあります
- 「うんちで出るのを待つ」は危険な判断。腸内でも穿孔は起こり、除去後も遅発性合併症のリスクが続きます
- 病院ではまずレントゲンで電池の位置を確認し、内視鏡での摘出が可能かどうかなど、電池の位置と状態に応じた方法を判断します
- 港北どうぶつ病院は朝7時から診療しています。ご不安なことがあればすぐにお電話ください
飼い主の方が責任を感じる必要はありません。ボタン電池は小さく、あっという間に口に入ってしまいます。大切なのは気づいた瞬間に動くことです。
ペットの体調で気になることがあれば、お早めにご相談ください。お電話(045-620-5550)または再診WEB予約から承っております(診療時間:7:00〜12:00/14:00〜17:00、休診:金曜日・日祝午後)。
ご相談・ご予約
当院では朝7時から診療を行っており、朝の不安な時間帯にもご相談いただけます。
- お電話:045-620-5550 ※初回は電話受付のみ
- 再診WEB予約:こちらからご予約いただけます
- 診療時間:7:00〜12:00/14:00〜17:00(休診:金曜日・日祝午後)
- アクセス:横浜市都筑区大棚町3004-1(センター南駅 徒歩6分)
- 駐車場:病院目の前に専用7台分完備