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10周年を迎えて

港北どうぶつ病院を開業して2025年4月21日で10年となります。院長、なにか10周年記念コラムを書いてくださいと言われてこの文章を書いています。

 

思えば10年前、当時はまだスタッフも機器も少なく、患者も来ず、不安を抱えてスタートしましたが、皆様のおかげでここまで来られました!これからも精進します!

・・・・・みたいなテンプレートではつまらないなと考え、とにかく「みんなと同じ」が大嫌いな性分なので、せっかくの10周年で誰も書かないようなことを書こうと思います。

今から書くことは解釈によっては患者様(動物とそのオーナー)を第一に考えていない病院だと捉えることが可能です。しかしなぜそうしているかを説明すれば私の本意が一定数の方には判っていただけるのではないかと考え、この機会に書いてみることにします。

 

それでは最初に、無事10周年を迎えられたということは10年間、私の病院運営が成り立ったということです。経営学とかマネージメントとか学んだこともないのに。

 

なぜか?

 

自分なりに振り返ってみると、やはり「みんなと同じ」をしなかったからかなと思います。

開業が決まってから多くの先輩開業医がアドバイスをくださり、開業コンサルの意見も聞きました。診療時間、病院設計、社員教育方針、料金設定、導入機器など様々な面で「そんなこと誰もやってないよ」と言われればやりたくなり、「みんなそうやってるんだから」と言われればやりたくなくなる性分を抑えることができず、その結果うまくいっているので、アドバイスしてくれた皆様には改めてお礼申し上げたい気持ちでいっぱいです。

 

なぜ私が頑なにアドバイスに従わなかったのかというと、単に性格がひねくれているからだけではありません。開業前、雇われの身だった私にいつか自分の病院を開く野望は無く、自分が心から尊敬できるボスに仕えて、その人の参謀こそふさわしいと思っていました。自分はカリスマ的なラインハルトではなくネクラなオーベルシュタインだなと。

そして実際、臨床家としては恐ろしく優秀な人にたくさん巡り合えましたが、素晴らしい臨床医=経営者として人としても素晴らしいとは限らず、むしろ反比例な人物ばかりの現実に晒され、参謀はあきらめ自分でやるしかないなと決意したのでした。

だからアドバイスに従っていたら自分も同じになってしまう。絶対にそうはなるものかという強迫観念にも似た想いが当時の私を衝き動かしていたような気がします。

 

色々なアドバイスの中に印象深いものがありました。「いいか新井。病院経営は人件費を抑えつつスタッフが簡単に辞めない仕組みをいかに作るか。それに尽きる」というもの。経営論として100%間違っているとは思わないし、良かれと思ってアドバイスしてくれたのだと思いますが、要は「従業員を低賃金でいかにコキ使うか?」がコツだぞということ。なるほど、そういう思想でオレたちをコキ使っていた訳ね?と非常に腑に落ちました。

 

動物病院業界は未だ圧倒的ブラックです。深夜残業や休日出勤当たり前。残業代がちゃんと出ているのかも有耶無耶にされ、「命を救う尊い職務だよ?お金じゃないよね?」という業界全体を霧のように覆う無言の圧力を前に声をあげられなかったり、搾取されていることに気づいてすらいない洗脳された人材が山ほどいます。

 

仕方ないよ。だって命を救う仕事だもん。

 

という自己犠牲の精神で昼夜を問わず動物たちを救うために働くことは大変尊いことだと思いますが、その結果、スタッフ達が疲弊し経済的にも報われない憂き目にあうことを私は許容できません。なぜなら私もかつては一兵卒として激務をこなし、経験を積ませていただきありがたいと思いつつも、こんなことずっとは続けられないなと感じたあの生活を、開業した途端スタッフたちに強いることは憚られるからです。

 

実際に経営者になってみると世の中の院長先生たちがどんなカラクリで従業員を搾り上げ自分だけ甘い汁をチューチューしているのか。その構図が良く分かりました。

まぁ念のため言い添えておきますが、世の中の私以外の院長先生が全員悪党だと言っている訳ではありません。むしろ意図的悪意でやっている人は少数派で、ほとんどは「動物病院業界ってそういうものだからさ」というなんとなくの時代遅れな徒弟制のような慣習が根深く残っているだけだと思います。

しかしそのために能力優秀な獣医師だったり動物看護師だったりが、大変な仕事なのに信じられない薄給で働かされている現実は枚挙に暇がありません。

 

作家の村上龍はこんなことを言っていた。

「お金で幸せは買えない。だが不幸を回避することはできる」

 

この言葉、その通りだなと思っています。私は当院のスタッフを幸せにしてやろうとは思っていません。幸せの価値観は各自で違うし、与えられるものではなく自分で掴むものだと思うので。しかしスタッフたちに良い労働環境と給料を提供し、不幸になる機会を減らせたら、それは間接的に幸せになれる確率が増し、私にとっても幸せです。

 

幸せではない人が他人を幸せにできる訳がないし、満たされていない人が他人を満たしてあげることはできないと私は思っています。だから当院に熱心に通って下さる動物たちとオーナーの皆様が健康を確認できて、怪我や病気が治って、幸せな気持ちで帰ってもらうことを本気で目指している当院において、人件費を削ることはできないのです。

 

なので当院の診療単価は一般的な動物病院の平均より幾分高額です。医療レベルを向上し続けるために情報や機器のアップデートに投資していることもその理由の一つですが、他の動物病院と一番異なるのはそこではなく人件費です。

 

ただし良い医療の定義は人それぞれです。従業員の給料が診療費に上乗せされて割高になるなんて冗談じゃない。良心的な価格に抑えて提供することこそ良い医療だとお考えの方がいたら、そのお考えは尊重しますが、当院の姿勢とはマッチしないと思うので他の動物病院をお勧めします。何よりも安さを優先している病院や最低限の検査や治療しかしないことこそ善とする病院、CTやMRIなど大学病院ばりの設備を整え夜間診療にも対応しているけどホスピタリティには気を遣わない病院など、世の中には色々なスタイルの動物病院がありますので、そんなあなたに合う病院が見つかることを心から願っています。

ついでに言えば、そのような他院で働いているスタッフさん達が理不尽なサービス残業や薄給を強いられていないことも願っています。

もう一つついでに言うと、上記のような病院のホームページに「丁寧なインフォームドコンセントを重視し」とか「家族のように暖かくお迎えします」みたいな文句が、書くのはタダですから、よく書いてありますが、当院のように本気で最高のおもてなしを目指している立場から言わせてもらうと、やる気も無いのに書くんじゃねえよと怒りを覚えます。

 

・・・いや、違うな。

 

きっとみんなやる気はあるんでしょうね。誰だって自分の病院を作る時に「よし!不親切な病院を作るぞ!」とは思わないはずです。だけどなんのコストもかけず、「患者さんには親切にしてあげてね」とスタッフに一声かければ実現するとでも思っているんですかね?

 

当院がなぜホスピタリティが行き届いているか?

動物たちに優しく、繊細な心配りをし、分かりやすい説明を心掛け、いつも笑顔で明るく接するスタッフたちがたまたま当院に集まってきたわけではありません。この人手不足のご時世にも関わらず価値観が近い優秀な人材だけを採用し、その人たちに根気よく教育し、その過程で脱落者も多く、教育投資が無に帰することも数え切れず、それでも妥協せず、誇りをもって働く気になってもらえるだけの給与と福利厚生を用意し、それらの試行錯誤に10年間投資し続けてきたからです。

要するに身も蓋もない言い方になりますが、良い医療、良いサービスを提供するにはコストがかかるということです。

 

投資をするには原資が必要です。汚い言葉に聞こえるかもしれませんが利益がなければ投資はできません。このようなお金の話はどこの病院も書きません。動物の命を救うため純粋に職務を全うしているクリーンなイメージとは真逆の印象を世間に与えデメリットしか無いからです。だけど寄付だけで成り立つ慈善病院以外は利益を出さなければ運営を続けられない。当たり前の事実ですが誰も言いません。問題はその利益をどうやって上げているかと、何に使っているかだと思います。そこに私は後ろめたさが無いので、あえて書いています。

 

しかしこれも当たり前の話ですが、どの動物病院に行くかを選ぶ権利が全オーナー様にあり、高いだけで何も取り柄が無い病院と判断されたら誰も来てくれないことも承知しています。だからこそ当院は必死で努力しています。他とは違う!やはりこの病院がいいな。と思っていただけるだけのものを提供するために。

 

 

 

なんだか10周年ということで気付いたら長々書いてしまいましたが、結局何が言いたかったのかというと、当院はとてもスタッフを大切にしているけど、それは患者様を大切にしていないということではなく、むしろ本当に患者様に良い医療、良いサービスを提供するためにこそ必要だと思うからやっているのであり、スタッフ達もそれが分かっているので生半可なぬるい対応は許されないという覚悟をもって働いている、そんな病院ですよ。ということ。この価値観に共感してくださる方にはきっと120%の満足を提供できる自信があるので是非ご来院ください。しかし共感できないと思った方にとってはろくでもない病院に映っているでしょうから、そう感じた方は最初から来ないでください。ということをお伝えしたかった次第です。

 

そして最後になりましたが、この10年間当院を信じて通ってくれた動物たちとオーナーの皆様。本当にありがとうございます。素敵な笑顔のスタッフ達の中で唯一愛想の無い私ですが、皆様からの暖かい支援に気づいていないわけではありません。心からの感謝をこの場を借りて申し上げます。これからもどうぞよろしくお願い致します。

 

 

港北どうぶつ病院 院長 新井勇人