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症例紹介

誤飲誤食(ぬいぐるみの一部)

内視鏡での症例報告をするこのページでは

こんなものも摘出しました。

とか

こんな対応も当院では出来ます。

とか

武勇伝的な報告を書いてきましたが、今回はどちらかというと失敗談です。

どちらかというと

というのは問題自体は解決されたのですが、そこに至るまでの過程が色々イマイチだったからです。

異物誤飲症例への対応には自信があるつもりですが、全てに完璧な対応が出来ているとは言えません。自分への戒めの意味も込めて今回紹介したいと思います。

 

 

 

今回の症例はワンちゃんです。

マルチーズとトイプードルのMix犬、4才の女の子。体重は3kg台です。

自宅にあったムカデ型のぬいぐるみの足の部分が、12本あるうちの3本が見当たらないとのことで、病院はもう閉院時間を過ぎていましたが、当院に長く通って下さっているオーナー様だったので、診察をお受けしました。

 

実際にオーナー様が持参されたぬいぐるみの写真がこちらです。

 

結構デカい!

足が三本ありません。

 

 

噛んで遊んでいたが飲み込んだ瞬間を見た訳ではない。しかし家の中を探してもどこにもない。

とのことでした。

ワンちゃん自身は何も症状無く元気いっぱい。

 

 

本当に飲み込んでいるのか?

まずはX線検査です。

撮影した画像がこちら。

 

 

丸く囲んだ部分が胃で、かなりかさのある何かが確認できますが、消化途中のフードなのかヌイグルミの破片なのかはX線画像で明確に判別することは出来ません。

しかし非常にあやしいはあやしい。

 

この場合の第一選択は催吐処置。吐かせることです。

実施すると大量の消化途中のフードに混じってぬいぐるみの破片が回収されました。

それがこちら。

 

しかし本当に小さな破片のみで大きな足三本分には全く満たない量です。

 

追加の催吐剤投与で更に吐かせました。

当院では催吐処置に独自のガイドラインを設けていて、これ以上吐かせるのは危険だというギリギリまで吐かせましたが、それ以上は何も出てきませんでした。

 

出てきた破片をオーナー様にお見せしたうえで、これ以上の催吐は効果を得られず、しかしまだ胃の中にある可能性が高いので、内視鏡での摘出に移行し、明日実施しましょうと説明。オーナー様も同意して下さいました。

 

 

 

翌日絶食で来院いただくと、ワンちゃんは昨日と変わらず元気な様子。

予定通り内視鏡処置を実施しました。

 

 

口から入れていくと、胃の一番奥にぬいぐるみの足らしき異物を発見。

掴んで引っ張り出し簡単に摘出に成功!

再度内視鏡を入れると、たった今摘出した異物の奥に隠れていた二個目の足も発見。

これも同じくすんなり摘出成功!

さらにもう一度内視鏡を入れて、最後の三個目の足を!・・・・・・と思ったら、あれ?

 

 

無い・・・・・・・・・。

 

 

 

 

(ちなみに摘出した足二個の写真はこちら)

 

 

三個目は胃の中のどこにも認められませんでした。

胃からさらに十二指腸の内視鏡が届く最奥まで入れてみましたが、やはりありません。

この場合、考えられる可能性は三つです。

 

 

 

1,既に内視鏡では届かない腸の奥まで進んでしまった。

2,実はオーナー様が気付かないうちにどこかに吐き出していた。

3,実は二つしか誤食していなかった。

 

 

 

オーナー様とは麻酔前に良くお話しており、最悪開腹手術になる可能性もゼロではない旨お伝えしてはいました。事前のオーナー様のお話からすると、2,と3,の可能性は低そうで、1,つまり腸の奥にまだ存在する可能性が高いと考えられました。

現時点で腸閉塞の症状はありませんが、これから腸を通過していく過程で詰まるかもしれません。

詰まれば急激に緊急性の高い状態に陥る可能性もあります。

ならば麻酔をかけている今この状態からそのまま開腹手術に移行するのが一番確実な摘出手段です。

 

しかし今回は迷った末に、あえてそれをせずそのまま麻酔を切って処置を終えました。

ワンちゃんは麻酔からの覚醒を確認して、その日のうちに帰宅。

 

結果、翌朝の散歩時の排便で三つめの足が丸ごと排泄されたとのことでした。

オーナー様曰く、細長くきれいに折りたたまれた形で出てきたとのこと。

 

 

 

いやぁめでたしめでたし。

と、大団円のフィナーレで終了・・・・・・して良いのでしょうか?

結果的に無事全ての異物を回収できたわけですから、結果オーライではあります。

しかし振り返って色々と考えなくてはいけないことがあります。

 

 

 

まず最初のご来院時に

X線検査であやしい影が胃の中に写っていた。

しかし催吐処置をしても出てこなかった。

この時点で翌日にまわさず、その日のうちに即内視鏡を挿入していれば、もしかしたら三つ全てがまだ胃の中にあり、全て摘出してその日のうちに問題が解決された可能性があります。

 

じゃあなぜそれをやらなかったのか?というと、来院された時点で既に閉院時間を過ぎており、ワンちゃんの体格と飲み込んだ異物の大きさから考えて一晩おいても胃より先に進む可能性は低い。胃で停滞している限り急変は起こらないので、翌日の対応で良いだろうと判断したわけです。

 

もちろん可能性は低くても当夜中に急変の可能性もゼロではない。なので今から夜間救急病院に行って内視鏡対応してもらうか?という提案もしましたが、切実に今夜中に対応しないと危ないよ!という伝え方はせず、恐らく明日の対応でも大丈夫だと思いますけどねというだいぶ楽観的なニュアンスでお話しました。

 

夜間救急に行くのも手間だろうから今からうちで対応してあげたいなという気持ちも頭に浮かびましたが、検査と催吐処置で時間を要した状況から、更に内視鏡となると夜遅くまでかかってしまう。全身麻酔となれば私一人では対応できないので何人かのスタッフに残業を強いることになるし、私も今日はもう疲れたから早く帰って料理上手な妻の作ってくれた夕飯にさっさとありつきたいな。という気持ちが微塵も無かったかと言えば、ちょっとあったことは正直に言い添えておきます。

そんな邪な気持ちバイアスが私の甘い判断をブーストし、明日で大丈夫と考えてしまったわけですが、一歩間違えば緊急状態に繋がる可能性もあった判断ミスであり、深く反省する次第です。

 

 

 

次に、翌日内視鏡を入れて三つめの足が無い!と判明した時に、責任取って開腹してでも摘出しなきゃと考え、しかし結局それはせず麻酔を終えました。その理由は感覚的な話になってしまうのですが、内視鏡で見える腸粘膜の様子等から、当初の予想よりもこのワンちゃんの腸は大きいものが通過できそうだ。あるいは三本目の足が想定以上にコンパクトに折りたたまれているのでは? と判断したからです。

 

結果的にこの判断は正解で、翌朝無事自然排出された訳ですが、私の経験(悪い言い方をすればなんとなくの感覚)に判断を委ねた結果であり、結果オーライではあったが、その後腸閉塞になった可能性もあったわけで、それが本当に最良の判断だったと言えるのか?

 

しかしじゃあ、私は責任感があるので開腹して摘出しましたよ!とやれば正解だったのかというと、ムカデの足は翌朝自然排泄されたし、オーナー様もワンちゃんも開腹を望んでいるはずがないので、正解とは言えません。しかしそれはあくまで結果論。結局どれを取っても最善とは言えず、やっぱりその日のうちに内視鏡で摘出しておけば、こんなことにはならなかったのにという後悔ばかりが頭に浮かびます。

 

 

 

 

最後に賢明なこの報告を読んでいる諸兄においては、三つめの足が便と一緒に自然排泄されたということは、そもそも論として催吐とか内視鏡とか何もしないでも、放っておけば三つとも自然に出てきたんじゃないの? という疑問が浮かんだ方もいるのでは?

 

もしかしたらその通りだったかもしれません。しかし、もしかしたら二つを内視鏡で摘出してかさが減ったからこそ残りの一つが自然排泄されたのかもしれません。そればかりはonly the ××x god knowsとしか申し上げられません。しかし今回の異物よりずっと小さなもので腸閉塞になった実例はいくらでもあるので、今回私が催吐処置および内視鏡処置をおこなったことが過剰な間違った判断だったとは思っていません。

思っていませんし、結果的に問題は解決されたのですが、私の中では色々とモヤモヤの残る事例となりました。

 

 

 

イマイチの対応になっちゃったんだよねと、根っからのpositive思考家である妻に話したら「異物は全部回収され、ワンちゃんは開腹を免れ、オーナー様は安心、スタッフは残業しなくて済んだ。全部良かったじゃん。なんでそんな難しい顔をしているのかさっぱりわからない」みたいなことを言われて、根っからnegative思考家である私はイラっとしたのですが、同時にそんな妻が妬ましくもあり、羨ましくもありました。

 

 

結局今回の症例報告で何が言いたかったかというと、当院は内視鏡による異物誤飲対応を一つの売りにしており、なぜそうしようと思ったかというと、私が救急医をやっていた時代に、異物誤飲して心配でたまらないから動物病院に行ったのにおざなりな対応をされた。という事例が多数来院したので、内視鏡の技術を駆使してそういう動物とオーナー様の不安を解消してあげたいと思ったからです。

なのに当院が「まぁ明日で大丈夫でしょ?」みたいなおざなりにも映る対応をしたらダメでしょ?という自身への戒めと、もう一つは異物誤飲への対応って、吐かせるか、内視鏡か、開腹か、の三択クイズみたいに単純なようで実は一症例ごとに物凄く色々な要素が加味されて、その中で最善の対応を取捨選択することは結構大変なんですよということを少しでも判って頂けたらなということです。

 

 

 

執筆者プロフィール

港北どうぶつ病院 院長

Hayato Arai